マラソンランナーの運動時の安全管理
ー運動負荷試験の必要性ー

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  2002年11月21日に起こった高円宮殿下(47歳)のスカッシュ中の心臓突然死、ついで23日の福知山マラソンで58歳、59歳の男性の心臓突然死、同日の名古屋シティーマラソンで58歳の男性の心臓突然死が相次いで起こりました。
  マスコミは、なぜ、50歳代後半の男性に、しかも、マラソンをする一見、健康と思われている男性に心臓突然死が起こるのかの疑問を抱きました。
  私は、心臓突然死の危険因子のひとつである
動脈硬化年齢(男性45歳、女性55歳以上)では。激しい運動をすると血圧が200mmHgを超える運動時高血圧が見られることを多くの運動負荷試験でで経験していました。
  同じ時期に発表された学術論文で、急性心筋梗塞、心臓突然死は、冠動脈内に形成されたプラーク(脂質コア)の被膜が破れることにより2次的に発生した冠動脈内血栓により急性閉塞が起こる
急性冠症候群の概念が発表されていました。
  マラソンでの心臓突然死は、冠動脈内プラークが激しい運動での心筋虚血の起こらない無症状の軽度の狭窄のある人が、運動時高血圧によりプラーク被膜が破れ、また、運動時の脱水により血小板凝集が亢進していることも大きな冠動脈内血栓を形成し
急性心筋梗塞に陥るものと考えました。
  急性心筋梗塞の発生時に、マラソンのように交感神経緊張状態にある場合には、
心室細動に移行しやすく心臓突然死に陥ります。
  多くのマスコミの取材を受けましたが、スポーツ時の心臓突然死は、観客の目も前で突然倒れるためにイベント主催者側にも救急管理体制が問われることになり、AED普及の好機と考え、大いにAEDの必要性を訴えました。
  同時に報道をみて、不安を感じた20名の市民マラソンランナーが受診し、運動負荷をはじめとするリスク評価を行いました。
  その結果、20人中1名のみが問題がないとの判断をしましたが、残りの19名は何らかのリスクがあり、競争するマラソンから楽しむジョギングに変更するように説得いたしました。
  上図は、49歳のマラソン暦10年、フルマラソン11回経験のベテランランナーでした。安静時の血圧は110/75mmHgでむしろ低血圧、除脈傾向にありました。
  運動負荷(ブルース法)を行った所、同年齢ではきついと思えるブルース3段階目でも心拍数は105/分で、血圧130/80mmHgで、さらに4段階目でもまったくの平気で、「マラソン時は、4段階目よりももっときついレベルで勝負している」との本人の言葉がありましたが、この時点の血圧は200mmHgを超えていました。
  血液検査でも特に冠動脈危険因子はありませんでしたが、マラソン時には200mmHgを超える
血圧で3時間以上走っている事になり、本人も走っている時に200mmHg以上になっていることを知り、今後はジョギングに変更する決意をしました。


  この39歳の男性は、市民マラソンランナーではないのですが、日ごろから通勤には歩行し、週1回のテニスを楽しんでいるごく普通の方です。
  同じように運動負荷(ブルース法)を4段階目まで行いましたが、4段階目では心拍150/分、血圧150/90mmHgで、足がついていけないことを訴えて、症状限界として中断しました。
  このように自覚症状がある場合には、これ以上は無理をすることはなく、さらに、血行動態的にも安全範囲内であることから、日ごろのスポーツの安全性が確認できました。



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